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京都地方裁判所 昭和38年(ワ)875号 判決 1966年3月17日

主文

原告に対し

被告北川禎三は別紙第一物件目録記載の各土地につき京都地方法務局伏見出張所昭和三八年三月十九日受附第四三七八号所有権移転請求権保全仮登記に基く所有権移転登記手続をなし

同第二物件目録記載の各建物につき所有権移転登記手続をなし且同第一物件目録記載の各土地につきなした京都地方法務局伏見出張所昭和三八年四月八日受附第五八二八号土地買戻特約の登記の抹消登記手続をせよ。

被告株式会社鋼管商会は別紙第一物件目録記載の各土地につきなした京都地方法務局伏見出張所昭和三八年四月八日受附第五八二八号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め其請求原因として

第一、(一) 別紙第一物件目録記載の各土地(以下本件土地と謂う)はもと被告北川禎三(以下被告北川と謂う)の所有であつたが原告は昭和三三年九月二九日被告北川から本件土地を代金四百三十八万円売買契約と同時に同人に対し内金七〇万円を支払い残金は昭和三五年三月末日迄に分割支払いのこと所有権移転登記の日は右同日とすること等の約旨のもとに買受け原告は右約旨にもとづき被告北川に対し左記の通り之が代金の支払を完済した。即

<省略>

<省略>

(二) 依て本件土地は原告の所有に帰属したるに拘らず被告北川は本件土地の所有権移転登記手続を履行しないので原告は己むなく昭和三八年三月十九日仮登記仮処分命令を得て本件土地につき即日京都地方法務局伏見出張所同日受附第四三七八号所有権移転請求権保全の仮登記を経由したところ被告北川は原告の所有権移転登記手続等を妨害せんとして被告株式会社鋼管商会(以下被告会社と謂う)と相通謀して本件土地を被告会社に売渡したものの如く仮装し同年四月八日附を以てほしいままに被告会社名義に所有権移転登記(京都地方法務局伏見出張所同日受附第五八二八号所有権移転登記)をなし且同日附を以て土地買戻の特約の登記(同法務局同出張所同日受附第五八二八号土地買戻特約の付記登記)をつけるに至つた。

(三) 然し乍ら原告は本件土地を被告北川から買受けて其所有権を取得しているのであるから被告北川は原告に対し之が所有権移転登記手続をなすべき義務を負うていると共に前記土地買戻特約の登記の抹消登記をなすべき義務を負担しているので之が履行を求める。

又被告会社と被告北川との間の本件土地の売買は相通じてなしたる虚偽表示に基くものであるから被告会社は本件土地の所有権を取得していないし仮にそうでないとしても被告会社は所有権取得を以て已に先になしたる仮登記権利者たる原告は被告会社に対し所有権にもとづき前記所有権移転登記の抹消登記手続を求める。尚被告主張の仮定抗弁に対し原告会社が被告北川から本件土地二筆を買入れた当時被告北川は原告会社の代表取締役であり当時原告会社の取締役会の承認を受けていなかつたから昭和三八年三月九日同取締役会の追認を受けたから原告の本件土地の売買は有効である。

第二、(一) 別紙第二物件目録記載の各建物(以下本件建物と謂う)は原告が昭和三六年一月三十一日大平工機株式会社から他の建物と共に合計金三十五万円で買受け代金の完済したもので原告の所有に属するものであるが本件建物は何れも未登記物件であつた為原告は未だ所有権移転登記を了していなかつたところ被告北川は昭和三八年三月二十六日突然本件建物を同被告が建築したものとして擅に同被告名義に保存登記(京都地方法務局伏見出張所同日受附第四七四二号所有権保存登記)をなすに至つた。

(二) 然し乍ら本件建物は原告の所有物で被告北川は同建物につき所有権を有していないから同被告の所有権保存登記は事実に吻合せざる無効のものである。それ故原告は所有権に基づき被告北川に対し本件建物の所有権保存登記の抹消に代え原告に対し所有権移転登記手続を求める

と述べた。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求める答弁として

一、本件土地は被告北川の所有物件である。被告北川は原告会社との間に本件土地の売買契約を締結したことはない。

原告が請求原因第一の(一)の事実で主張している事実は次のことを丕曲したものである即

(1)  被告北川は昭和二十年頃から個人で機械工具商を営んでいたものであるところ其工具の部門を兄の正に譲渡し機械の部門を昭和二十六年五月九日財扶機械工業株式会社と称し株式会社組織に改組し之を同月十四日北川機械株式会社と商号を命名し更に昭和三十二年四月一日商号を株式会社北川鋼材と変更した。之が原告会社である。

(2)  従て被告北川は原告会社の設立者であり設立当初から其代表取締役社長であつたが昭和三七年五月二十八日之を辞任した。

(3)  本件土地は被告北川が昭和三〇年頃買得したもので当時其立地条件から急激な地価の高騰が予測されていた。

(4)  たまたま昭和三十三年九月頃から昭和三十四年十月頃迄の間に被告北川は原告会社の社長に就任していた当時社長の資格ではなく北川個人として約五百万円程金員を必要とする事情があり本件土地を担保として銀行等の金融機関から借財しようと考えたが其頃原告会社には其手持現金が豊富にあつた為一時原告会社から被告北川個人が必要とする都度必要金額を借受けようと考え第一回目に昭和三三年九月二九日金七十万円を原告会社から借受けることにした。

(5)  然し被告北川は当時原告会社の代表取締役社長として原告会社の現金を勝手に流用したと誤解されることを慮り武田憲一の意見に従い売渡担保の形式で(書面の形式は売買として後日被告北川が実際借用した金員を原告会社に返還した時は原告会社は其所有権を被告北川に返還することにして)本件土地を当時一坪の単価約二万余円していたものを其半値以下の七千五百円と評価して之を原告会社に担保として差入れ原告主張の年月日に原告主張の日に其主張の金額の金員合計金四百三十八万円を借受けたものである。

若し被告北川が真実本件土地を原告会社に売渡したものなれば商法上当然取締役会を開催し且坪当り其頃の相場である単価二万余円で売買代金一、一六八万円余で売却する筈であるが原告会社から一時借財するつもりであつたから取締役会の開催をしないばかりか右のような不当に低い単価で売買したるが如き形式の書面を作成したに過ぎないもので右書面は真実に反するものである即

(6)  被告北川は本件土地を原告会社に担保にして借財したが原告会社に本件土地を売渡した事実はないから原告の請求は失当である。

(二) (1) 次に本件建物は被告北川個人が昭和三五年頃建築し被告北川個人が所有するものであつたが其頃被告北川個人は大平工機株式会社の取締役であつた関係上(被告北川は大平工機株式会社の取締役を昭和三六年三月三十一日満期退任した)右訴外会社に右建物を使用させていた。

(2) 然し被告北川は昭和三六年一月頃原告会社の代表取締役であり原告会社として右建物を使用する必要があつたので当時の占有者の大平工機株式会社に其返還を求め同会社に対し移転料として金三十五万円を出すことになつた。

(3) 大平工機株式会社から本件建物の返還を受けた場合之を使用するものは、原告会社となるから右移転料の出費者は被告北川個人ではなく原告会社から出ることになるのは当然である。又原告会社は右建物を必要としていたので将来被告北川から之を買受ける必要がある等の諸事情があつたので被告北川は武田憲一に其処置を相談したところ同人の示唆に因り右建物の売主を大平工機株式会社買主を原告会社として右建物売買契約書を昭和三六年一月三十一日付で作成し右売買代金三十五万円(事実は移転料)を昭和三六年二月十五日支払うこと右大平工機株式会社は同年七月末日迄に本件建物を原告会社に明渡すこと其後は原告会社は被告北川と協議して本件建物の売買代金額を定め、之を完済した時に右建物の所有権移転登記をすると謂うことにした。

(4) 右のように右建物は被告北川個人の所有であつて大平工機株式会社の所有ではなく又原告主張の請求原因第二の(一)の売買契約は真の所有者でない右訴外会社と原告間の契約であつて何等効力もないから原告の請求は失当である。

(5)  そして原告会社は其後被告北川個人に対して右建物買入につき正式に代金額の決定方等を申入れて来ず従て売買の話は不調となつたので被告北川は右未登記の本件建物を真の所有者である被告北川個人名義に原告主張の日に保存登記をしたのである。

三、仮定抗弁

仮に被告主張の一の事実が不当にして本件土地が原告主張の如く売買に因り原告に売渡されたものなりとせば被告北川と原告会社間の本件土地の売買契約は当時被告北川が原告会社の代表取締役であつたから原告会社の取締役会の承認を得ていないから本件土地の売買契約は無効であるから原告の第一の請求は失当であると述べた。

証拠(省略)

別紙

第一物件目録

京都市伏見区川東町十一番地

一、宅地   三百五十坪

同所同番地の三

一、宅地   二百三十四坪

第二物件目録

京都市伏見区川東町十一番地の三

家屋番号同町第十一番の三

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建工場

床面積    七九、四九平方米

附属建物

一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫

床面積    二二、六〇平方米

一、軽量鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫

床面積    三九、七四平方米

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